イタリア人にイタリア料理をつくって食べてもらうのは強心臓じゃないとできないとはじめは思ったけれど。フィレンツェでは大家さんに、習ってきた手打ちパスタやプリンやクレームブリュレなんかを食べてもらっていた。シチリアでもデザートをつくってお世話になった方々に配ったりした。
日本の料理を出すのは、それを上回る緊張だった。果たしてこれらの味が、食にコンサバな人たちにとってどういうものなのかとおもったから。それでも、生姜焼きやカレーライスを食べてもらって、大いに喜んでもらった。先輩から、生姜焼きやカレーライスはうけるときいていたけれど、これまで下宿した日本人はつくっていなかったようで、大家さんには初めての体験ながら、魅惑的だったようだ。
また、フィレンツェを離れる前に、とてもお世話になった友人夫婦の家で感謝の気持ちを込めて日本の食事を用意した。
イタリア人は本当にいつも家の中をきれいにしている。中でもこのお宅は海をイメージしたインテリアがとても心地よかった。大好きだったキッチン。
いろいろ考えたあげく、つくったのは、以下の4品。
・てんぷら(アスパラ、なす、鰯、えび、玉ねぎと人参のかき揚げ)
・鰯のつみれ汁
・なすの即席漬け
・そぼろごはん
いちばん気に入っていたのは、そぼろごはん。豚ひき肉でつくった。甘辛い味がはまったようで、しょうゆや出汁を渡していったら、その後またそぼろをつくったという連絡もあったくらい。「おにくちゃん」と愛をこめて呼んでいた。
てんぷらは、むこうのフリットが分厚いので、日本のものはこんなかんじと伝えたくてつくった。衣の軽さがいいと言っていた。てんつゆへの抵抗もなかったようす。
つみれ汁はおもしろいと。なすの即席漬けは、しょうゆと生姜のみじん切りを加えてもみこんだもの。ちょっと変わっているけれど、おいしいと。
予想以上に興味深く思ってくれて食べてくれて、やった甲斐があったなあとしみじみ思いながら、お酒がすすんだ。
郊外の家だったので、帰りは車で送ると言ってくれた。だんなさんも結構のんでいたから、飲酒運転になるからいいと断ったけれど。きみはここをどこだとおもっているんだ?ここはイタリアだから!とおおらかに言われ、そうかーとなんとなく納得して送ってもらった。