フィレンツェの歴史地区(通称チェントロ)は観光エリアのため、夜になると騒がしい。週末になるとご多分に漏れず、ボリュームが一層上がる。
窓を閉め、さらに木の雨戸を閉めるのがデフォルトで、それでも1階にある居酒屋の喧騒が4階の部屋までまっすぐ上ってくる。暑くなると、風を求めて窓を開けて大音量を耳にするか、汗がにじむなか少しでも静けさをとるか、悩ましい。
そんな6月の月曜に学校から帰ると、大家さんのマリアがワクワクした顔で話しかけてきた。
「昨日はとりわけうるさかったでしょ、ロマーノが1階のテラス席でビール呑んで騒いでいたアメリカ人観光客に、生卵を投げつけてやったの!しかも古いやつ。」
「え?本当に?!その卵どうなったの?」
「胸元に命中!白いシャツがだらーっと黄色になった!一緒にいた犬もびっくりして、ワンワン騒いじゃって(笑)それから静かになった。」
おどけて犬のまねをする。
マリアが70歳の夫の武勇伝を、目を爛々と輝かせながら語る姿に笑った。
今まで気づかなかったけれど、ほかのフロアでパーティーをしていれば、ドアをドンドンドンドン!と叩いて抗議していたらしい。卵のほかに大量の水を下にいる客にかけたこともあるそうだし、警察呼んで、居酒屋が罰金払う羽目になったこともある。
ロマーノ、ふだんはもの静かだけど、そこにはやはりラテンの血が流れている。
4階からだと、卵が当たると結構痛かっただろうな。