フィレンツェと違って、タオルミーナに来る日本人留学生はとても少ない。それは希望通りの状況だったのだけれど、イタリア語が初級レベルゆえに母国語に飢えていた3週間目、日本人の女の子を学校でみつけたときのうれしさといったら!
次の日、彼女のステイ先のメンバーで行く外食に私も連れていってもらうことになった。ホストで一人暮らしのおばあちゃん「アントニーナ」、日本人の女の子たえちゃん、同じくそこにステイ中であるアイルランド人のマリー、そして私の4人。アントニーナの息子が経営するレストランまで歩いていった。
アントニーナは、私がどこにステイしているか、どんなものを食べているかたずねた。そして、私のステイ先の“お父さん”アウレリオ(73歳)はアントニーナの同級生だと判明。共に地元で顔がきく二人。どうやらライバル関係にあるようだ。
私が、夕食はパスタが主食で、たまにシーフードがつくが、基本的にはブルスケッタやマチェドニア(フルーツポンチ)で軽く済ましているときくと、ひどく気の毒がった。うちに移ってきなさいと。
翌朝学校にかけあってみるも、ステイ先の変更はできないとのこと。それをアントニーナに伝えてもらったら、せめて今晩の夕飯を食べにきなさいとのことだった。
行ってみると人形が沢山飾ってある家で、壺から顔だけが出ているものもあり、ぎょっとした。それを指摘したら、体が取れてしまったからそうしていると。
近所の人が通れば窓際に駆け寄り、その行き先を見守りながら独り言をつぶやく。なかなかに、好奇心が強い。さすがは主、情報収集を怠らない!
この日はさらにアウレリオへの敵対心をあらわにしていたので、移っていたら二人の関係がより面倒なことになっていたかもしれないと思い、ちょっとほっとした。
すすぎにレモンの皮を使い洗剤を落とすアントニーナ。二の腕の柔らかさは相当なもの。
たえちゃんは休暇で来ていたので数日で帰国した。その後も、アントニーナは夕食を毎日うちで食べなさいといってくれたけれど、外での食事ばかりだと家で気まずくなるし、夕食代を支払い済みなのが勿体無いこともあって、ときどき伺うことにした。
アントニーナの家にいくことは、勿論アウレリオには内緒だ。
なすとパルミジャーノのパスタ、甘みのあるにんにく入りトマトソースのブルスケッタ、ふかふかのピッツァ、ラザーニアなど、ご馳走になった。
スプマンテ(スパークリングワイン)やジェラートをおみやげにもっていくと、本当に気にしないで!と言いながら、楽しんでくれた。
夕食ではなく、お昼にお邪魔することもあった。韓流ドラマ顔負けの、こってこての昼ドラをアントニーナの解説付きで見ながら、2人で食事をとる。
行くたびに、昨日の夕食はなんだったのか訊かれ、答えると、大げさに不憫がられた。私も、ついつい哀しげに報告する癖がついてしまった(笑)
おなかがいっぱい!と言った瞬間にジェラートを盛られたり。とても惜しみない人。
学生が入れ替わり立ち替わりやってくる家では、外国人の名前を覚えきれないのだろう。愛しい人といった意味の「Cara(カーラ)」と皆に呼びかけるアントニーナ。ユーと呼ぶジャニーさんみたいな感覚だ。
帰国後に一度手紙を送ったところ、花柄のカードで返事をくれた。いつか、私のことを覚えていますか?、って、ふらっと会いに行きたい。